○はじめに先のM3で頒布された「
はんこコンピ PRESS the SOUND」についての解説と感想です。
あくまで私の感想・見解であることをご了承いただきたく。
また各参加者様についての解説はこれを執筆しているときの私が把握している内容ですが、もし誤情報ありましたら先にお詫びいたします。
○なんで「はんこ」だったの?そもそもなぜ雑貨で頒布したかという話です。少々お金が絡んだ下世な話になることをご了承ください。
2年くらい前に出した「
This is (still) ELEMENTAL EP」という作品があります。
これは印刷所に依頼して作ってもらったDLカード形式での頒布でした。
これ、原価自体はかなり安く原価回収は早々にできたのですが、実はほとんどの売り上げがbandcampのDL版の売り上げで、
物理版は予定部数が今でもほぼ全部残っている状態です。
DLカードはかさばらないので廃棄するほどでもないのですが、それはそれとてどうにかできないかなと思って、
一つ思いついたのが「
DLカードを実用的にすること」。
一般的なDLカードって、言ってしまうと名刺とかそんな感じのペライチなので、
曲のDLが済んでしまうと名刺ホルダー行きになったり、最悪処分されたりするだろうし、それゆえ物理での受けが悪いのかなと考えました。
(あと何らかの実用性を持たせられれば最悪余っても自家消費ができるというネガティブな利点もあります)
2023年のDAW禁止コンピ「
Discrete 9」を物理頒布するときにちょっと実験をしてみて、
無料頒布のコルクコースターとして、聴いた後にも別の用途で使い続けられるようにしました。
これが結構受けたので、次M3に出る時はこれを主軸に置いたコンピを出そうと思いました。
で、2024年夏ごろ、M3への参加を決めた段階でコンピの企画書を書くことになりました。
ここで困ったのがどの雑貨をテーマにするか。
いつもお世話になってる
おたクラブさんのノベルティ印刷メニューとにらめっこしてると、意外とどれもよさそうだしどれも欠点ありそうだし……と、
絞り込みをするつもりがなにも絞れない状況に。
結局、私が実生活の大きな変動があった都合、個人情報をいっぱい処分しないといけなくなったので、
ここで「けし○ン」か「シュレッダー」の2択になって、後者は物理的に頒布が無理なので「け○ポン」、つまりはんこにした、という流れだったはずです。
○あの納品書は何?実用的なDLカード→QRコードを押せるはんこ、というところまではよかったのですが、そうするとはんこだけ単体で頒布するの?というのが気になり始めました。
何の装丁もなしにこれだけ頒布するのはさすがになんかおかしいな、という話。
ここで思い出したのがボカロPの
ねこぜなおとこ氏が頒布していた過去作品で、
かなり実験的だったり面白い遊びが効いていたりする作品を複数リリースされていました。
じゃあそういう感じで遊んでみようと思い、はんこを使って遊べそうなものということで、
重要そうな書類のデザインをしたDLカードという発想になりました。
肝を冷やした方、すみません。
○コンピタイトルについてこのコンピの企画書を書いたタイミングでは「The CONTRACT」という仮題をつけていました。
これははんこというか蝋印のイメージ、そこからさらに「のっぴきならない拘束力のある契約」を連想して、
オケ系楽曲とかアートコアとか、とりあえずそういうファンタジー系の想定をして付けた仮題でした。
楽曲募集が終わって全曲通しで聴いたところで、どちらかというとはんこを押す動作モチーフの曲が集まっており、
なんかしっくりこないなと思ったので、楽曲募集と一緒にアンケートを取っていたタイトル案のうち、
Syu-i氏の案をそのまま頂いてこのタイトルになりました。
(厳密なこと言うと元々は"the"も大文字でした)
○各曲の感想・解説・Tr.01 : per sonare - One Step
per sonare氏とはこのコンピまで直接の接点はなかったのですが、
かつて存在した「DTMマガジン」という雑誌の読者コーナーの常連投稿者として名前をお見かけしていました。
テーマとしては「はじめてはんこを使うときの心情に寄り添った曲」ということで、
非常に爽やかなインストゥルメンタルとなっています。
そういうわけなら最初に置いちゃうか、ということでトップバッターでの登板となりました。
・Tr.02 : 昴cell - 推して!押させて!
昴cell氏はポップなラップを軸に色々作っている方で、
確かOX-project様でのカップ麺コンピでご一緒したのが最初に名前を見たタイミングだったかなと思います。
このコンピで唯一の歌モノで、レトロなエレクトロサウンドに乗せてはんこへの偏愛をひたすら歌い上げてくれています。
曲順のどこに置くのか一番悩んだ曲で、前半に置くことだけは確定してたのですが、
前後のつながりとかを考えると迷うことが多くて、結局Tr.03~04の一貫性を優先してこの位置に置いています。
・Tr.03 : UDLR - Struggle to write resume
UDLR氏は近畿圏を軸足にテクノ~アンビエントを製作している方です。
元々某氏のStepManiaパッケージでご一緒してはいて、その後私のパッケージの方でも楽曲提供いただいて、
関西の音系同人イベント「音けっと」でサークル参加されてるときにご挨拶している感じのつながりです。
(尤も私の方が今年近畿圏を離れてしまったのでしばらく行けそうにはありませんが……)
はんこを押す動作がリズム隊に起こされていて、そこに焦燥感をあおるシンセウェーブ的な細かいシンセ/ベースフレーズが組み合わさることで、
曲名の通り(一か所ミスったら終わりの)書類を作っているときの葛藤が上手く表現されています。
・Tr.04 : YiVE - Stamping
YiVE氏もこのコンピまで接点がなかった方で、普段は別名義で東方projectの楽曲のアレンジを作られています。
前曲に続いてテクノではありますが、前曲が「押し間違えたら終わりの焦燥感を表現した禁欲的なテクノ」なら、
こちらは「はんこを押して印字されることを楽しむ楽観的なテクノ」で、リズム構築などは近いものがありますが、
シンセ音が若干キュートな感じで音数も全体的に多くなっています。
・Tr.05 : ナイラー - Sealing
すみません!主催の強権発動して2曲書きました!(時系列的にはこちらが2曲目です)
各曲を並べてると「音圧低めの前半」と「音圧高めの後半」をつなぐものが欲しくなって、急遽書き下ろしたものです。
コッテコテのゼロ年代前半の同人プログレトランスって感じですが、これはブレイク前後で一気に音圧差を出してもそこまで違和感がないジャンルだということと、
こういうジャンルで「熱的な変化」を示せることを過去にExabit Records様に提供した曲で覚えてたので、
「蝋印を温めて押す」というモチーフを織り込みながらその方向に寄せていきました。
・Tr.06 Dourmin - hanko tech
Dourmin氏は会場焼きコンピで何度かご一緒している方で、色々作られていますが確か軸足はフルオンサイケだったかと記憶しています。
今回ははんこを押す動作を強いキックの4つ打ちに見立てて、その上にベースと細かいシンセ音を載せて、
所謂音ゲーハイテックの形に仕上げてあります。丁寧な音の積み上げと展開の作り方がステキ。
・Tr.07 UltraEcho VS. Ered Nust - STOMP TO YOUR FEET
UltraEcho氏はparty nite mixの現主催、Ered Nust氏は同旧主催の新旧主催コンビです。
今年初頭にStepMania関連で繋がってから要所要所で楽曲提供いただいてます。マジ助かりです。
Ered Nust氏お得意の泣きメロピアノで引き付けておいて、それをUltraEcho氏の強いリードメロでハッピーにひっくり返す。
両氏の長所が恐ろしいほどにかみ合った一曲です。
・Tr.08 Syu-i - Stormy Day
Syu-i氏も明確な接点はなかったのですが、過去に私が偶然流れてきたWIP動画にいいねを付けてたのを覚えていただいてたらしく、
その縁でご参加いただきました。ありがたい限りです。
「退勤直前にドカ積みされた書類を狂いそうになりながら捌く(意訳)」イメージで、
はんこを押すイメージのポンポンしたシンセ音と暴れ狂うトランスサウンドで、当事者じゃないから笑えるけど、
これやる側だったら絶対キレてるだろうなあ……という書類仕事の暴力が目に見えてくるすさまじい一曲です。
・Tr.09 sloppyman - inky
先に作っていた方の私の曲です。
コンピ全体のアウトロとしてチルい曲が欲しいなと思って、
はんこを使う仕事が終わり切って手から朱肉のにおいが漂っているような状況を描くような曲を作りました。
一個だけ問題があるとすれば朱肉ってそんな匂わないことですが。
○あとがきというわけで、はんこコンピの振り返りでした。
アルミビジョンではこんな感じの変な形式で頒布するコンピを定期的に企画しようと思っているので、
よければ手に取っていただいたり参加いただいたりしてもらえると幸いです。
それでは。